meets

目黒・五反田エリアで活躍される方々と、MEGURO MARCのプロジェクト関係者の対談企画です。
働き方や暮らし、学びなど様々なテーマで議論を行っていきます。

オフラインの接点を戻して 事業成長のきっかけとなるような コミュニティにしていきたい

五反田バレー代表理事 / 中村岳人氏 Tone&Matter / 広瀬郁

MEETS MEGURO MARC #01

今回は、MEGURO MARCでエリアマネジメントの事業企画を担当しているトーンアンドマターの広瀬郁さんが聞き手役となり、五反田に拠点を置くスタートアップ企業を中心に発足された「一般社団法人 五反田バレー」の、代表理事の中村岳人さん(株式会社ハイウェイ)を迎え、五反田エリアの活動や魅力について、お話を伺いました。

広瀬:
MEGRO MARCのビルが建つ場所は、ITベンチャー・スタートアップ企業が多く集まるエリアとして注目を集めていますよね。「五反田バレー」と呼ばれるようになった経緯と、その活動について教えてください。
中村:
「一般社団法人 五反田バレー」を会社として登記したのは2018年の7月なので、コロナ期間を跨いで5年目になります。ただその前の2015年頃から、「freee株式会社」や「オイシックス・ラ・大地株式会社」といった今でこそ規模の大きな企業が五反田にちらほら集まり始めていて、日経などのメディアがこのエリアを取り上げる際に、シリコンバレーをもじった「五反田バレー」という言葉を使うようになりました。
広瀬:
なるほど、概念が先に生まれたわけですね。
中村:
そうなんです。まだ五反田バレーを法人化する前、当時「株式会社マツリカ」という会社に勤めていた僕は、さまざまな五反田の企業さんと情報交換をするためによく飲み会に参加していました。その際に、いわゆる大手企業の新規事業開発の方が「スタートアップ企業とオープンイノベーションをしたいけど、どこと組んでいいかわからない」とfreeeさんに相談を持ちかけていると耳にした。それがちょうど五反田エリアがメディアから注目され始めた時期だったので、この流れを上手く活用すればもう少し五反田全体が盛り上がるのではないかと、所属していた「株式会社マツリカ」を始め、「freee株式会社」「株式会社ココナラ」「セーフィー株式会社」「株式会社トレタ」「株式会社よりそう」の6社が理事企業となり、組織を設立しました。法人化することによって、“世の中の流れがこっちにきているぞ”というのをメディアにアピールできたのは大きかったですね。その結果メディアに取り上げられることも増え、今では100社以上のITベンチャー・スタートアップ企業がこのエリアに集まっています。
広瀬:
それはすごい数ですね!
中村:
もちろん関わり方に濃淡はあります。五反田バレーには、年会費を払って大企業とのオープンイノベーションやイベントに参加してもらう「正会員」、イベントだけ定期的に参加してもらう「一般会員」、そしてコワーキングスペースなど五反田バレーで活用できるものを提供してもらい、それを他の会員がシェアをする「賛助会員」という3つの会員属性があって、会員登録をして深く関わってくれている企業は50社ぐらいでしょうか。
広瀬:
その数ある企業のパイプ役が五反田バレーである、と。具体的な活動はどのようなことをされているのですか?
中村:
大手企業やメディアが五反田のスタートアップ企業と繋がりたいというときに、一箇所に集めてそれぞれを繋ぐ交流会を2〜3ヶ月に1回行っていました。五反田バレーを立ち上げた時はオフィスの距離が物理的に近いことが強みで、とにかくオフラインのコミュニティだったのですが、それが難しくなったのがコロナ禍です。とはいえ五反田バレーと繋がりたいというニーズは多かったので、オンラインのイベントはやり続けていました。
それとは別に、五反田バレーを立ち上げたことで変化があったのが、品川区と協定を結んだことです。品川区としては、五反田バレーがもり上がって会社が増え、さらに地元の商店街や、会社をIT化・DX化していきたいというのが狙いなのですが、提携を結んだことで一気に取り組みの幅が広くなりました。たとえば、品川区商店街連合会と品川区、「株式会社エム・フィールド」の3者が協力して取り組んだ「大商業まつり デジタルお買物ラリー」。これはエム・フィールドが提供するサービスを活用したデジタルスタンプラリーなのですが、ITを導入することで、参加する人の属性や利用店舗を分析できるようになりました。このように地元企業や商店街の支援施策をさせてもらったのがコロナ禍の取り組みです。
広瀬:
地元はIT化が進み、手伝ったスタートアップは自治体と取り組んだ事例ができることで事業的にもいいサンプルになる。いい相乗効果ですね。自治体や大手企業とスタートアップ企業を繋ぐいわゆるエージェントのような活動がメインということですが、活動拠点はここ「SHIP 品川産業支援交流施設(以下、SHIP)」になるのですか?
中村:
五反田バレーの登記場所はSHIPにさせてもらっていますが、イベントや会議のすべてをここで行っているわけではありません。大手の会社さんが交流スペースや会議室を貸してくれるので、活動の場はそのときどきで変わります。それでいうと五反田バレーは専任のスタッフもいません。運営メンバーは基本的に五反田バレーOB、OG、あるいは現会員か五反田近辺に住んでいる人なのですが、全員副業的に手伝ってくれているんです。運営に関わるメリットとしては、あまりネットに強くない地元企業さんと繋がり、それがきっかけでコラボが生まれるということがあります。
広瀬:
そもそも、スタートアップ企業がなぜ五反田という場所に引き寄せられたんですかね。
中村:
一番は、利便性に対して家賃が安いところだと思います。スタートアップ企業は社員数が10人以下、30人以下、100人以下、それ以上で分けられているのですが、どの会社も初期フェーズはコストを抑えたい。ランチ1,500円のエリアにオフィスを構えてしまうと、家賃も生活するコストも高くなりすぎるわけです。その点、五反田はリーズナブルな街として選ばれています。さらに、池上線や浅草線など山手線の外側に向かっている線が通っているので、オフィスにアクセスしやすい距離の場所に住めるというのも、ハードワーカーが多いベンチャーに好まれる理由の一つではないかと。僕自身マツリカに入社するタイミングで結婚・引っ越しをしたのですが、当時はオフィスに30分以内で通えて生活しやすい戸越銀座を選びました。
広瀬:
ビットバレーと呼ばれていた渋谷に、少し背景が似ている部分がありますね。渋谷と五反田、集まる人たちの属性は全然違いますか?
中村:
これはあくまで傾向で統計的根拠は一切ないんですが、渋谷で起業している方と五反田に会社を構えている起業家さんの属性はかなり違うというのが五反田バレー側の目線です。サービス内容を聞くと、to C向けの、盛り上がり始めている領域で起業される若い方が渋谷には多いイメージ。一方の五反田はBtoB、toCの、これから跳ねるというよりは着実に積み上げていくタイプの、比較的年齢が上の起業家さんが多い印象です。エリアの特性から結果そうなっているのだとは思いますが、合理的で堅実な意思決定をする人が集まっていますね。あとは、飲み屋も小綺麗な赤提灯居酒屋に行く人が多かったりするので、そういうレトロなカルチャーを好む人が五反田の周りに居続けてくれています。スナックってちょっと面白いよね、とか。以前は五反田といえば少しピンクの街のイメージだったんですが、IT企業が増えてからネガティブイメージも少しずつ緩和されてきました。ただ、五反田バレーと呼ばれ始めてからは人がどんどん増え、実はコロナの寸前ぐらいに家賃がものすごく上がってしまって。コストが抑えられるという本来の五反田の良さが失われかけていた時期があったんです。
広瀬:
入りたい企業に対して、ビル数が多いわけではないですもんね。
中村:
そうなんです。ただ、コロナになってこの勢いが一気にビタっと止まった。値段がもう一度下がり、今は適正価格に戻りました。さらにリモートワークの波がきたことでフロア面積の大きなオフィスを借りる必要性がなくなったので、今までと床数・枠数は変わっていないのに企業数は増え、規模の大きな会社も居続けられるようになりました。一方で、オフィスに行く頻度が減ったことでコミュニティのあり方は変わり始めているので、今、五反田バレーにオフラインのコミュニティを期待して入ってくる人はそれほど多くないんじゃないかなと思います。どちらかというと、コワーキングスペースのようなスタートアップ向けのサービスが提供されていたり、登記がしやすかったり、品川区と提携が結ばれていたりと、スタートアップを立ち上げる環境が整っているという理由で選ぶ人が多いのではないかと。
広瀬:
ある程度構築されたフレームワークには引き寄せられるけど、オフラインの“ザ・五反田”という感じが今はないから、交流のあり方が変わってきているんですね。でもそれが戻れば、また変化がありそうだな。こうした世の中の流れの中で今後どんなことができたら面白いと思いますか?
中村:
五反田バレーだけでなく、今僕の頭の中を占めているトピックがまさにその「とはいえオフラインに敵うものはないよね」ということなんです。創業初期フェーズの、顔突き合わせてこれからどんなサービスしようか仲間とやいやい言いながら得る感覚だったり、そこで過ごす時間みたいなものは、関わった人たちの満足度を決めると思っていて。イベントでもリアルで会って名刺交換することで発生するものもあるので、そういうオフラインの接点を戻して行きたいと強く思っています。オフラインでイベントに参加した人たちのバイブスを上げて、事業をやりたい人を増やすこと。そして、実際に事業成長のきっかけとなるようなパスを出せるようなコミュニティにしていきたいです。
それともう一つ、地元の困っている人と特定の会社を繋げる取り組みも五反田バレーならではのあり方だなと思っていて。自治体と絡むことができるのは他のエリアにはないメリットとして打ち出せるので、どんどん強化したいと思っています。
広瀬:
示唆に富んでいて面白いですね。確かに、そもそも仕事が辛くて楽しくなくて、かつ満員電車に揺られることから解放されることで喜びを得る人が多いというのが価値観のベースにある、という風潮があると思うんですよ。でも、リモートワークが増えてラッキー! というのは、根本的解決にはならないじゃないですか。
中村:
仕事が面白くない、という課題に蓋をしているだけですもんね。
広瀬:
そうです、そうです。人と直接会ったり、その時間を共有したりという仕事の面白みは確かにあると僕も思っていて。最近では社員の満足度を上げるためのオフィス改革にお金をかける企業もあるように、再びオフラインを見直す企業が増えていくと思うんですよね。MEGRO MARCにもキッチン付きのレンタルスペースや、ミーティングにも使える共有ラウンジがあるんですが、そこでどんなコミュニティが生まれるかますます楽しみになりました。
中村:
僕は趣味で漫才をやっているのですが、その仲間に誘われて、先日五反田の会社が主催するモルック大会に出場したんです。そこで出会った主催者と盛り上がって飲みに行くということがあって、少しずつオフラインのコミュニティが復活しつつあるなとは感じています。自然発生的にこういったイベントや繋がりが増えることに期待したいですね。
広瀬:
漫才! ぜひMEGRO MARCのスタジオでステージやってください! いっしょにこの街を盛り上げていけたら嬉しいです。
中村 岳人さん

中村 岳人さん

一般社団法人五反田バレー 代表理事/株式会社ハイウェイ Co-Founder COO
人事・採用領域のコンサルティング会社で人材紹介事業の立ち上げを担当。
その後、株式会社マツリカに入社。マツリカ在籍中に、一般社団法人五反田バレーを立ち上げ、代表理事に就任。
株式会社Patheeでサービス立ち上げを経験。
2021年11月に株式会社ハイウェイを設立。
Co-Founder COOに就任

広瀬 郁

広瀬 郁

株式会社トーンアンドマター代表取締役
外資系のコンサルティング会社・不動産ベンチャー会社で勤務後、現職。 クリエイティブとビジネスのブリッジングを得意とし、 様々な新規事業にプロジェクトデザイナーとして携わる。 新たな仕組み・仕掛けのデザインが必要とされる、ワークプレイス、公共空間・公共施設、エリアマネジメントなどの領域で多岐にわたるプロジェクトを推進中。